経済界の権威、世界経済フォーラムで語られた、企業がLGBTに目を向けるべきシンプルな理由。

LGBT権利保護を明確に宣言するグローバル企業が増えてきています。世界経済の代表的な会議である2017年度の世界経済フォーラム(World Economic Forum) で語られた内容について、良記事でしたので完訳しました。長いので要約しておきます。

・LGBT権利を保護することを表明するグローバル企業は急速に増加している。

・その理由は、それに対する明確な見返りがあるため。

・Glocally(グローカリー)の視点で企業はLGBT政策を推進すべきだ。

・企業は国に率先して平等という価値観に基づいた社会を築いていく機会に恵まれている。

 

〜〜以下、翻訳です。〜〜

ちょうど10年前の日曜日のメールで、Lord Browne(*1)が意図せずカミングアウトしてしまった時、彼はほんの数日でBP(*2)の社長の座を譲り渡さなければならなかった。しかしその一方で、Tim Cook(ティム・クック) (*3)が2014年のビジネスウィーク誌のインタビューにおいて、前向きなカミングアウトをした時、世界の経済界は賞賛した。

*1:1948年生まれ、石油メジャーのBP(British Petroleum)元CEO。ケンブリッジ大学卒業後、BPに入社。生え抜きとしてCEOに就任するが、2007年に、恋人に同性愛関係を暴露され、辞任。

*2:国際石油資本。世界の石油メジャー6社の1角。

*3:言わずと知れた、Apple社のCEO。スティーブ・ジョブスの遺志を引き継ぎ、アップルを世界No1企業に。2014年に「ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌」にカミングアウト。

両者における言葉の使い方はそれほど異なったものではなかった。ただ、Lord Browneが「embarrassment and shock (困惑し、ショックだ」;と語った一方で、ティム・クックは「proud to be gay(ゲイであることを誇りに思う)」と語り、「ゲイであることは神様からの最高の贈り物だ」と続けた。

LGBTの権利という点では、経済界ではこの10年間で、立法者を先駆けて目覚ましい変化を遂げている。考えてみてくれ。今日、US連邦法では職場においてLGBT従業員を保護する法律は依然として存在しない一方で、Fortune500企業(*4)の91%が性的志向による差別を禁止する方針を導入している。また、そのうち67%の会社はさらに進んでいて、LGBTの家族に対しても健康保険などの福利厚生を拡大している。

*4:「フォーチュン誌」により年1回発表されるランキング。全米上位500社を総収入によりランク付する。

ヨーロッパにおいてもこのような進展は見られる。例えばイギリスの情報期間であるMI5では現在、ストーンウォール(*5) の発表するTop Eployer of the yearにおいて首位にランクしている。これは90年代の初頭ではLGBTの人々がイギリスの情報機関で働くことを禁止されていたことに鑑みれば、目覚ましい成果だ。

*5:LGBT権利のためのイギリスのNGO。

このような勇気付けられる発展がある一方、まだなすべきことは多く残されている。世界の半分以上の国では未だにLGBTは職場における差別から保護されておらず、70カ国以上で同性愛の関係は未だに犯罪である。さらに痛ましいことに、米国及び英国におけるLGBTの学生の50%が学校でひどいいじめにあっており、うち3分の1の生徒は中退を余儀なくされている。また、米国における若いホームレスの40%はLGBTの人々であるという現実も偶然ではないだろう。

人材及び経済的価値の潜在的な浪費は無視できないほど大きいものである。Out Now(*6)の調査によれば、米国企業がLGBT人材を引き留めるための包括的な方針を実行すれば、米国経済はさらに90億ドルの経済的価値を享受できる。LGBT人材のための方針を有さない国は、経済的価値を見逃している。世界銀行(World Bank)はインドにおいて、LGBTに対する広範な差別により、毎年320億ドル失っていると試算する。

*6:LGBTに特化した、イギリスのマーケティングリサーチ会社。

一方で、LGBT権利を擁護する会社は利益を享受することができる。LGBT層は、最も忠誠を尽くす顧客になる。彼らはたとえ出費がかさむことになったとしても、自分たちを守ってくれる会社に対して報いる。アメリカ市場だけを考えても、LGBTコミュニティによる購買力は8000億ドルと見積もられるのだ。

スターバックス(Starbucks)のCEOであるハワード・シュルツ(Howard Schultz)は、反LGBTの株主に対して、「(スターバックスのLGBT権利擁護に反対するのならば)スターバックス株を売却し、他の株主になるのは自由だ」と述べたことは有名である。スターバックスは広告にドラッグァ・クイーンのBianca del Rio and Adore Delano (*7)を起用し、LGBTのカルチャーを取り込むことに成功している。この広告は、YouTubeにおける世界的なヒットとなっている。

*7:アメリカの俳優、ドラッグァ・クイーン。アメリカの人気バラエティ番組RuPaul’s Drag Raceで優勝し有名に。

ウーバー(Uber)もまた、世界中のドライバーに対してLGBTの乗客を差別することを禁じている。たとえ、事業を行う国において差別することが認められていても、だ。フロリダ銃乱射事件(*8) が起きた際には、世界中のLGBTの、ランドマーク的な場所への移動について、無料の乗車機会を提供したし、事件の被害者家族に対しても乗車を無料とした。

*8:2016年6月にフロリダ州オーランドのゲイクラブで発生した銃乱射事件。50人が死亡し、53人が負傷する、アメリカの犯罪史上最悪の事件。

スポーツやアパレル会社についても、同様のトレンドとなっている。アディダス(adidas)はPride月間(*9)のあいだ、人気ラインのStan Smith trainerのレインボーカラーモデルを発表し、売上の一部を、ホームレスであるLGBTの若者を支援するオレゴン州のチャリティに寄付した。また、NBA(全米バスケットボール連盟)は、2017年度のオールスターゲームを、HB2法を制定したシャーロット(*10)で開催することを決めたことは記憶に新しい。

(Image: J. Latvala via Flickr)

*9:LGBTのフェスティバルPrideの開催月。世界的に6月に開催する国が多い。

*10:米国ノースカロライナ州で制定された反LGBT法。トランスジェンダーが自認する性別するトイレの使用権の保証を無効にする法律。トランスジェンダーは戸籍上の性別におけるトイレを利用せざるを得なくなった。

結果は明らかだ。LGBTに配慮することは経済的に意味があり、それは強力だ。LGBTの権利に対する広範な方針を有する企業は、革新的で、従業員の忠誠心も高く、差別に関する訴訟を受けるケースも極めて低い。それに加え、顧客からも、ポジティブに受け止められる。まさしく、ウィンーウィンの関係だ。

ただ、LGBT権利を抱擁する旅路は一夜にしてならない。企業は正解を探している。どこから始め、特に、同性愛が合法絵ある国でいつ事業を開始するか。答えは『グローカリー(Glocally)』にある。これは地域ごとに多様性の経済的利益を強調する一方、安全で平等、かつ、誰もが受け入れられる世界的な方針を適用する考え方だ。

手始めに、会社内のLGBT従業員が職場において自身の性的指向をカミングアウトすることに抵抗がないか、また職場においてホモフォビック(homophobic,同性愛嫌悪)によるいじめがないか調査するのが良い。

組織において、目に見える形でLGBTのロールモデルが存在することも重要だ。その次は、アライ(ally,協力者)だ。上級の経営陣で、LGBT権利に対する包括的な会社方針を擁護し、推進するものはいるだろうか。アライの役割は極めて重要だ。なぜなら、「マイノリティのカミングアウト」の問題から「才能、パフォーマンス及びイノベーション」という概念へ、高みに昇る役割を担うのだから。

国連(UN, the nited Nation)の観点からは、ホモフォビア(同性愛嫌悪)との闘いは、かつて以上に『development imperative (喫緊の課題)』だ。国家の政策を超越した、多様性を包含する会社文化を醸成することで、企業はその国際的な影響力を利用して、社会経済的な発展に貢献するという、素晴らしい機会に恵まれている。

グローバル企業の従業員は、彼らあ居住する国における文化にかかわらず、職場において、彼らが愛すると決めた人、一緒になることを選んだ人のために差別を受けることがないように保護されるべきである。

World Economic Forum

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